第3回(3月28日アップ・ロード)


私たちのホスピスの現状

全体の告知率 前回は、「告知」という言葉についてでしたね。これについては、もう少しお話ししなければならないのですが、また次にお話しすることとして、今回は私たちのホスピスでの現状をお話しします。

 左のグラフは、これまでホスピスに入院した患者さんがどの程度自分の病気を知っていたかを示したものです。

 これを見ると、全く知らされていなかった人は24.0%で、はっきり「がん」と知らされていた人が64.3%でした。 それとなく知らされていた人を含めると、76%の患者さんが自分の病気のことを知っていたことになります。

 これだけでも、今の日本の状況からするとかなり高い率になると思いますが、欧米の国々と比べると、まだまだ高いとは言えません。

年度別告知率 ところが、これを年度別にしてみると、左のグラフのように年々告知率は高くなっています。 最近では、しっかりと自分の病気を知っている人が94%近くになり、それとなく知らされている人を含めると96%を超えています。

 なぜこのように年を追って高くなってきているのかと言うと、一つにはホスピスができたことが関係しています。
 ホスピスができたことによって、医者の間に「本当のことをお話しする」ことの重要さが広まってきたのです。

 また、新しい薬(抗がん剤)を開発するための治験(発売前の薬の効果を調べるために、患者さんの同意を得た上で試験的に使用する)を行うために、インフォームド・コンセント(充分な説明と、納得した上での同意)を徹底して行うようになったことも、一つの要因でしょう。

 この傾向は、ホスピスだけではなく一般の病棟でも変わりません。

 現在では、一般の病棟でも80%位の患者さんが、自分の病気のことを理解した上で治療を受けています。

 この数字が100%にならないのは、自分の病気のことは知りたくないという患者さんについては、その意思を尊重するのが原則であることと、高齢の方に、あえて「あなたの病気はがんですよ。残された時間は少ないのですよ」などとお話しすることが、その人にとってどれほどの意味があるのかと言うことです。(もちろん高齢の方でも、自分の病気を知りたいという人には、ちゃんとお話しします。)

 総ての患者さんに機械的に告げることにすれば100%の告知率になりますが、知りたくない患者さんの意志を無視するのではインフォームド・コンセントを重視したことにはなりません。 おそらく、現在の告知率が限界だと思います。

 問題は、本当のことをお話しした後のサポートです。

 お話ししたら「それでおしまい」では、患者さんを苦しめるだけになってしまいます。

 「これから自分はどうなるのだろうか」、「残された家族は、ちゃんと生活していけるだろうか」、「この痛みは止めてもらえるのか」などなど、患者さんの悩みや苦しみは、計り知れないものがあります。

 痛みは、モルヒネを上手に使えば、ほぼコントロールすることができます。
 経済的な面や、介護者の問題などを解決するには、保険制度や福祉制度をよく知った上で活用する必要があります。

 けれども、このような事を解決したとしても、患者さんの苦悩が総て解消されるわけではありません。 こころの痛み、苦しみは残ってしまうのです。

 こうした悩みや苦しみを和らげるには、患者さんの話に耳を傾けることしかありません。 患者さんの傍らにすわって、10分でも20分でも、時には1時間以上も、じっくりとお話を聞くのです。

 今の医療の現場では、ゆっくりと時間をとることが大変むずかしくなっています。 けれども、病名を知らされた患者さんをサポートするには、この時間が大切です。 終末期の医療(ターミナル・ケア)にたずさわる人は、このことを忘れてはなりません。


 次回は、なぜ日本では「告知」が進まないのかを考えてみたいと思います。