十二人の怒れる男

前々から取り上げたかった作品の一つ、シドニー・ルメット監督、ヘンリー・フォンダ主演の"十二人の怒れる男"です。
元々はテレビ・ドラマだったそうですが、ヘンリー・フォンダが惚れ込んで、脚本を書いたレジナルド・ローズと共同で製作しました。

1月24日(木)午後8時から、NHKのBS-2で放送されますので、お時間のある方は是非ともご覧下さい。


十二人の怒れる男(`57年製作、`59年日本公開)

監督:シドニー・ルメット
脚本:レジナルド・ローズ
撮影:ボリス・カウフマン
音楽:ケニヨン・ホプキンス

出演:ヘンリー・フォンダ、 リー・J・コッブ、 エド・ベグリー、
   E・G・マーシャル、 ジャック・ウォーデン、 マーティン・バルサム、
   ジョン・フィードラー、 ジャック・クルグマン、 エドワード・ビンス、
   ジョセフ・スウィーニー、 ジョージ・ヴォスコヴェク、 ロバート・ウェーバー、
   ルディ・ポンド、 ジョン・サヴォカ、

(`57年度アカデミー賞・作品賞、監督賞、脚色賞にノミネート)


あ ら す じ

POSTER 今日、18歳の少年が父親を殺した罪で裁かれようとしていた。審理は終わり、裁判長は陪審員に評決を出すように求めた。12人の陪審員は、陪審員室に移動する。
 彼等は初めて顔を合わせたばかりで、お互いの名前も知らない。
 陪審員#1(マーティン・バルサム)が陪審員長となり、まず評決を取ることとした。大方の予想は現場に残されたナイフや目撃証言などから全員一致で有罪になるかと思われたが、開票してみると無罪とした人が一人いた。それは#8(ヘンリー・フォンダ)であった。
 早く帰りたい陪審員達はなんとか#8を説得しようとするが、逆に証拠が不確実であることを指摘され、無罪に賛成する人が増えていく。
 何回かの投票で、#3(リー・J・コッブ)、#4(E・G・マーシャル)、#10(エド・ベグリー)の三人が有罪に投票するが、#4と#10の二人は説得されて#3だけが強行に有罪を主張する。
 しかし、最後になって自分と息子の関係を置き換えていることがあばかれ、遂に無罪に賛成する。
 陪審員達は、雨上がりの裁判所の階段を下り、三々五々と家路につくのだった。


迫 真 の 裁 判 劇
12 ANGRY MEN-1
左から
E・G・マーシャル、 ジョン・フィードラー、
ヘンリー・フォンダ、 エド・ベグリー、
ロバート・ウェーバー、 ジャック・クルグマン、
ジョン・ヴォスコヴェク、 マーティン・バルサム、
ジョセフ・スウィーニー、
 検事と弁護士が丁々発止と意見を戦わす法廷劇とは趣を異にしますが、やはり裁判劇と言っていいのでしょうね。
 陪審員制度のない日本では少しなじみが薄いのですが、裁判長が話す陪審員の心得、「どんな容疑者でも判決前は無罪なんだ。それを検事が有罪を立証しようとする。陪審員はその検事の意見に納得するかしないかで、それまでは白紙でいなければならない」と言う言葉と、映画の中で展開される陪審員の討議を通して、陪審員制度を幾らかは理解できたような気がします。

 #8は格好のいい役で、ヘンリー・フォンダがやりたかったのも頷けます。一人無罪を主張するのですが、目撃証言があやふやなことなどを説いて、少しずつ賛成者を増やしていきます。

 前半の見せ場は、ナイフの下りですね。
 みんなが「こんな珍しい形のナイフは、二つと有るはずがない」と言うと、前に買っておいた同じ形のナイフをテーブルに突き立てます。
 これで一気に無罪に賛成する人が増えてしまいます。

 12人の陪審員はそれぞれに個性があって、とてもうまく書かれています。
 #1(マーティン・バルサム)は高校のフットボールのコーチで、まとめ役にぴったりです。#2(ジョン・フィードラー:「くまのプーさん」でピグレットの声をやっている)は時間を計る係りで、いかにも堅実という感じです。
 #3は最後まで有罪を主張しますが、リー・J・コッブが将に適役です。初めの方で息子の写真を見せたりするのですが、実は家を出てしまって帰ってこないことが後で判るなど、うまく伏線が張られています。
 #4(E・G・マーシャル)は証券取引会社に勤めている人で、論理的に話をします。#5(ジャック・クルグマン)はスラム出身で、チンピラやナイフのことも良く知っています。#6(エドワード・ビンス)はペンキ屋さんで、いかにも庶民的といった感じですね。#7(ジャック・ウォーデン)は野球ファンで、早く終わってナイターへ行きたがっているマーマレードのセールスマン。
 そして#8がヘンリー・フォンダで、無罪を主張する建築家の役です。
 #9(ジョセフ・スウィーニー)は良識のあるおじいさんで、最後の方で見せ場があります。#10(エド・ベグリー)は「あの少年は嘘つきだ。やつらはろくでなしだ」と演説する頑固じいさんの役割。#11(ジョージ・ヴォスコヴィク)は、移民の時計屋さんですが、#10の言葉遣いを直したりして、面白いですね。
 #12(ロバート・ウェーバー)は駄洒落を言ったりして、職場の人気者かな・・といった感じですね。

 裁判が終わって、陪審員達が雨上がりの街へ出ていくラストはとても印象的なのですが、残念ながら写真を見付けられませんでした。

12 ANGRY MEN-2 陪審員のキャラクター紹介が長くなってしまいましたが、覆される証言や、陪審員同士の迫真のやり取りなどは、是非とも映画でご覧になって頂きたいと思います。

ヘンリー・フォンダは、改めて書くこともない程、有名ですね。
 1905年にネブラスカに生まれ、苦労をしながら舞台俳優としての道を歩み始めました。'35年ヴィクター・フレミング監督の「運河のそよ風」で映画にデビュー、'40年の「怒りの葡萄」(ジョン・フォード監督)でアカデミー主演男優賞にノミネートされました(受賞は「フィラデルフィア物語」のジェームス・スチュアート)。
 その後は'46年の「荒野の決闘」のワイアット・アープ役が際だった程度で、あまり良い役に恵まれませんでした。
 再びブロードウェイに戻り、「ミスタア・ロバーツ」で好評を博し、'55年に映画化された作品でハリウッドに復帰しました。
 その間に5回の結婚をしました。ピーター・フォンダとジェーン・フォンダは、二人目の妻シェリーとの間の子供です。
 彼等とは仲違いをし、断絶状態となっていましたが、'78年にピーターが監督した「Wanda Nevada」に出演、'81年にはジェーンが制作した「黄昏」に主演し、初めてのオスカー(主演男優賞、その前に特別賞を受賞している)を手にしました。
 しかし、授賞式の時には病床にあり、ジェーンが代理でオスカーを受け取りました。彼女の「私はとても幸せ、あなたを誇りに思う」と言うスピーチは、会場全体を感動させました。
 その5カ月後に、彼はこの世を去りました。

 リー・J・コッブは渋い俳優ですが、彼がいなかったらこの映画もこれ程評判にならなかったのではないでしょうか。

 マーティン・バルサムは、シドニー・ルメット監督の「オリエント急行殺人事件」にも出演しています。その他にも「サイコ」('60)、「5月の7日間」('64)、「小さな巨人」('70)、「デルタ・フォース」('86)などに出演しているので、ご覧になった方も多いでしょう。

シドニー・ルメット監督は1924年フィラデルフィア生まれで、この時は33歳です。TV界出身で、これが劇場映画初監督です。
 デビュー作でアカデミー賞にノミネートされた彼は、その後も「女優志願」('58)、「フェイル・セーフ 未知への飛行」('64)、「セルピコ」('73)、「オリエント急行殺人事件」('74)、「狼たちの午後」('75)、「ネットワーク」('76)、「ウィズ」('78)、「デストラップ」('82)、「評決」('82)、「ファミリービジネス」('89)、「グロリア」('99)など、幅広い分野に亘って名作、大作を送り出しています。
 ハリウッド育ちではないニューヨーク派の巨匠として現在も活躍していますが、「良心」にこだわり続ける彼の作風は、沢山の人々に支持されています。

それはまた別の話 この項を書くに当たっては、イラストレーターで映画監督もしている和田誠さんと、映画監督・シナリオライター、そして俳優もやっている三谷幸喜さんの共著「それはまた別の話」(文藝春秋刊)を参考にさせて頂きました。
 これは「キネマ旬報」に24回にわたって掲載された対談を一冊にまとめたものですが、「十二人の怒れる男」、「アパートの鍵貸します」、「舞踏会の手帳」、「フランケンシュタイン」、「ダイ・ハード」、「絶壁の彼方に」、「バンド・ワゴン」、「素晴らしき哉、人生!」、「トイ・ストーリー」、「恐怖の報酬」、「エイリアン」、「裏窓」の十二本の映画を取り上げており、お二人の蘊蓄を傾けたお話は、何回でも読み返したくなる面白さです。
 右はこの本のカバーですが、お二人が共同で十二人の陪審員をイラストにされたそうです。12時が#1で、時計回りに2、3・・・となっています(#1、2、4、6、7、11:三谷、#3、5、8、9、10、12:和田)。
 映画がお好きな方は、是非一度お読みになってはいかがでしょうか。
 映画そのものや、出演者にまつわるエピソード、撮影現場の話など、思い掛けない発見をすることが出来ますよ。(^o^)